梨木香歩『家守綺譚』新潮社ISBN:4104299030

 うわっ!この話、すっごく好き好き。図書館で借りて読んだけど、ぜひ手元において読むべき本だと思う。
 どことなく懐かしさを感じさせる幻想譚。亡き友人の家へ「家守」として住みつくこととなった作家・綿貫。ひっそりあるいは咲き乱れる花々として表される四季の移ろいを織り込み、同時に彼の元を訪れる優しい怪異との交流を描いた、ちょっぴり不思議な、まさしく「綺譚」としか言いようがない物語である。現実と異界の境界が定かでなくなり、あたかも夢で夢を見ているような、あわあわとたゆかう浮遊感がたまらなく心地良い。湖で行方不明になった友人・高堂が、掛け軸を通じ、綿貫の元をたびたび訪れるっていう設定も、たまらない。じゅるじゅる(←をい^^;)。
 時代背景は明治か大正なのか?河童がいて、小鬼がいて、狸が人を化かす。かつての日本人は、あやかしをも含んだ花鳥風月を愛で、共に歩んでいた。かつては当たり前だった光景が、当たり前のように「ある」世界―。現実を離れ、たとえひと時でも…懐かしく、不思議な世界に心を解き放つもの、悪くない。