今日の読書 伊岡瞬『145gの孤独』

145gの孤独

145gの孤独

 第25回横溝正史ミステリ大賞受賞後の第一作目。表題作の145gとは、野球の硬球の重さのこと。たった145g。その145gが、大人の男でも支えられないほどの重みだったりするんですねえ(涙)。
 プロ野球の投手だった倉沢は、試合中の死球事故が原因で現役を引退。その後、彼が事故の当事者兄妹と始めた仕事は「付き添い屋」。依頼者はどれも奇妙な依頼ばかりで…。
 1章・2章はどこか樋口有介の柚木草平シリーズを彷彿とさせる、ハートウォーミングなミステリ。簡単な依頼、と見せかけて…徐々に事の真相が明かされて行くようすが読ませます。胸が締め付けられる複雑な事情も絡んでたりして、何度涙腺が緩んだことか、、、うるうるうる。思いがけないところに、伏線が仕込まれてるんだもんな。第1章も良かったけど、第2章にも、琴線触れまくり。
 主人公倉沢が便利屋稼業を続けながら、花屋の若旦那にそれとなく促されつつ、再び「野球」に戻る再生の物語なのかと思っていたら。一筋縄ではいかなかった。後半になって物語は一変。唖然呆然&驚愕のうず潮に。ま、まさかそんなことになっていたなんて!おったまげ。いや、そう説明されると、今まで読んで疑問に思ったことが、全て払拭されて、すっきりするんですが。それにしても、辛すぎる(涙)。
 結局はこの物語、背負いきれないほど深い傷を負った主人公が、目をつぶってうずくまっていた場所から立ち上がり、新たな始まりの一歩を踏み出すまでの物語なんですね。辛く絶望的な状況なのに、決して希望を捨てず、そればかりか新たな希望さえ胸に抱いて…。これでお終いなんて勿体なさ過ぎる。ぜひその後の彼の姿も、描いて欲しい。
 とにかく、この主人公の設定と性格がいいのよね。事務所で働く晴香や依頼人たちと交わす軽口や、女性と見ると、ほわ〜んと淡い思いを抱いてしまうところなぞ、樋口有介の柚木草平シリーズを彷彿とさせるんですが、すべてのからくりが明かされた後では、彼のこの軽口に救われた思いにさえなります(あ。p.396〜397は、私には不要だと思ったけど)。
 受賞作も読むのだ。
いつか、虹の向こうへ

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