保坂和志『途方に暮れて、人生論』

途方に暮れて、人生論

途方に暮れて、人生論

 どきりとさせられる箇所、無防備に信じこんでいた価値観をひっきり返させられる箇所が山のようにあって、付箋貼りまくって読んでました。中でも胸がずきりと痛んだのが、冒頭の「人生を感じる時間」での

 ワープロはモニターに集中してしまうために本当に、書くことを労働にしてしまう機械で、私は周囲との接触を知らず知らずのうちに遮断して、ただこの文章を打ち込んでいた。それはやっぱり、人生の時間を無駄にすることではないか。
(p.12)

 気がつくと平気で半日以上もPCの前に座って、惰ネットしてる自分自身のことを、胸に手を当てて深く反省。
 どの文章も、カチカチに固くなった頭を柔らかくほぐしてくれるだけでなく、物事を他方からも見、真摯に受け止める姿勢を教えてくれる。
 迅速かつ合理的なものが求められる現代の風潮に対し、「そうじゃないんだよ。自分自身の人生にとって何が必要なのかじっくり考えるためにも、ゆっくり考えるのは決して悪いことではないし、時には立ち止まって考えることも必要なんだよ」そう語りかけてくれ、この時代に生き難さを感じている人を励ましてくれるのだ。反時代的かもしれないけど、真摯な態度と率直なもの言いで、人生について考え続ける保坂さんの言葉が、心に沁みるエッセイでした。