本日の読書 綿矢りさ『夢を与える』

夢を与える

夢を与える

 一人の女の子の成長をようすを丹念に追って描いた小説。ごく普通の女の子だったのに、可愛く生まれついたがゆえに芸能界に棲むことになり、マスコミに翻弄され持ち上げられた挙句、自らのスキャンダルにより堕ちてしまう。
 アイドルという夢を与える偶像になりきれず、自ら破滅を招いてしまう主人公なんだけど、求められる偶像としての自分と生身の感情の間で引き裂かれそうになり、ひりひりした痛みに晒される描写が、筆冴え渡ってるようで凄味があった。
 才能はある人なんだと思うけど、もうちょっとストーリと人物造形に説得力が欲しかったなと思う。
 多摩くんとのエピソードは良かったのにねえ。彼と心通わせるシーンが、話が進むに連れてドロドロして生臭くなっていく物語の中で、唯一の血が通った清涼なものとして、印象強く残っている。
 いつまでも無垢な少女のままではいられない。なのに…とても残酷な少女小説だ。ま、実際のアイドルも、脱アイドルが難しいっていうからねえ。少女から大人の女性になった夕子。ラストではあんな風に言われてるけど、やる気と根性さえあれば、まだまだ芸能界でやれるんじゃないかと思いますけどねえ。この後の夕子が見たい。