本日の読書 桂望実『明日この手を放しても』

明日この手を放しても

明日この手を放しても

 中途視覚障害者になってしまった潔癖な妹と、性格にかな〜り難がある兄の兄妹。兄妹とはいえ反りが合わない二人が、一家の太陽だった母親の事故死、漫画家の父親の失踪などを乗り越え、衝突を繰り返しながらも次第に心通わせ、人間として成長しながら支えあって生きていく歳月を描いた作品。妹視点の物語と、兄視点の物語を交互に配することによって、読者には(笑)お互いがお互いに相手のことをどう思っているのか、そしてその想いがどう変化していくのか、手に取るように分かるという趣向が効いている。
 最初の頃は妹も兄も、「どっちもどっち。なんでそんなところで衝突しちゃうかなー(怒)」どちらにも感情移入できず、読んでいてイライラしていたものの、10年も経った頃には…(感涙)。中途失明も母親の事故死も父親の失踪も、確かに悲劇には違いないが、衝突しつつもいざとなったら頼れる存在が身近にいたからこそ、乗り越えられたんだろうな。そりゃないにこしたことはないけど、もし共に乗り越えなければならないもろもろがなかったら、互いに互いの良さが分からず、人間としても成長せずにそのまんまだったのか?と思ったら、ぞっとした。ちょっとしたきっかけで、人間はより良い方向へと、変われるものなんだねえ。兄弟っていいな。いざとなったら頼れる存在がいるのっていいなと、羨ましくて仕方がなかった。 
 派手さがまったくない地味な話ではあるものの、じんわりしみじみとする家族物語。単なる美談ではなく、人間の矮小さ、嫌らしさもきちんと描いているところに好印象。この作家の次回作にも、期待!