本日の読書 タニス・リー『悪魔の薔薇』

悪魔の薔薇 (奇想コレクション)

悪魔の薔薇 (奇想コレクション)

 さっそく読んじゃった。まさしく<現代のシェヘラザード姫>タニス・リーの真骨頂というべき耽美華麗にして幻想怪奇、頽廃的で官能を刺激する作品が9編収録された作品集。
 最近読んだリー作品はジュブナイルで、「リーの作品が読めるのは嬉しいけど、私が読みたいのはこういう作品じゃないんだ!」かなり不満が残るものだったので、『闇の公子』に連なるような幻想&耽美&退廃&怪奇な作品らを(しかも初訳だ!)こうして読めて「こういうのが読みたかったのよ!」感激して、大興奮しちゃった。まったく受け付けない人がいるかもしれないけど、私は大好物です。じゅるじゅる(笑)。
 簡単に各作品の感想を。


 ヴァンパイアの女主人に仕える従者の哀しみを綴った「別離」。色褪せ萎れた世界が、色彩と瑞々しさを取り戻すものの…どんなに愛していたとしても、女主人の前で去らねばならない存在は、ちっぽけでたわいもないもの。残酷で切ない愛の物語。
 表題作の「悪魔の薔薇」は、作品の雰囲気はいかにもリーらしく、禍々しくも美しいんだけど、オチが(汗)。作者自身が「この作品はわたしの作品の中でもっとも恐ろしいもののひとつ」と語ったそうだけど、私にはちょっと。世紀末の怪奇小説に、似た作品がありそう。
 「彼女は三(死の女神)」は、頽廃的で物憂げな霧にけぶるパリを舞台に、死神に魅入られてしまい、破滅へと堕していく芸術家たちを描く。現実ではないどこか非現実の異界めいたパリの光景が、とてもいい。ねっとりした闇の、なんと魅惑的なことか。うっとり。20世紀初頭より、世紀末の雰囲気で読んでました。あ、1984年度の世界幻想文学賞短編賞受賞作です。
 「美女は野獣」は、フランス革命期のシャルロット・コルデーによるマラーの暗殺を下敷きにした短編。あの事件が、こんなにも残酷な寓話になるなんてー。人は、自分が見たいようにしか、物事を見ないのかも。本質を自分の目で見抜くことの、なんと難しいことか!
 あああん。これ、好き好き好き!>「魔女のふたりの恋人」。恋は女を魔女に変える。恋(チャーム)の魔法に取り憑かれてしまったヒロインの一挙手一投足を、ドキドキしながら息を殺して読んでました。もちろん、身持ちの固い彼女の初めての恋が成就しますようにって、祈る思いで読んでいたんですが、、、。いやあ、一筋縄じゃいかないですねえ。このつれなさ意地悪さが、たまりませんわ(笑)。
 「黄金変成」は、ローマ帝国末期の辺境を舞台にしたお話。帝国と東方の対決、異邦の技を素直に受け入れられない頑なさが…。異教徒の娘が使う妖しいさ全開の錬金の術を描写する文章がいかにもタニス・リーで、うっとりしちゃう。そういえばこの中に登場するエピソード、どこぞの神話で読んだ気がする。
 <現代のシェヘラザード姫>が物語る、まさしくアラビアン・ナイトが「愚者、悪者、やさしい賢者」。艶やかでエキゾチックな物語世界に、うっとりと耽溺。が、最後の一文が効いてますねえ。物語に一滴垂らす毒を決して忘れないのが、タニス・リーなのかも。
 「蜃気楼と女呪者」は、登場人物の名前からして中国風な物語なんだけど、なーんか「平たい地球」シリーズに差し込んでも、違和感がまったくなさそう。しっかし途中までは、残酷極まりない物語なのに、ベタ甘じゃーん(汗)。
 解説で中村融さんが言及してるけど、そう言われれば、私の大好きなC・A・スミスっぽい作品かも>「青い壷の幽霊」。壷の中にある異世界が、古代中国の説話『壷中天』を思い出させる。も少し毒があった方がもっと好みだけど、こちらの想像をかるく裏切ってくれるラストがたまりませーん。


 はぁ。次に何を読もうかな。ひとまず浅羽莢子訳のリー作品を中心に、読み返したいな。解説で、リーと比較対象される名前として出てきてるアンジェラ・カーターも必読のこと!>私!