伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』

ゴールデンスランバー

ゴールデンスランバー

 「これぞ伊坂幸太郎!」。伊坂幸太郎作品の魅力が、ぎゅぎゅぎゅっと凝縮されて詰まっている贅沢な一冊だ。
 首相暗殺の冤罪をかけられた男が、姿が見えない巨大な「敵」と戦う2日間を描いた物語なのだが、書き様によってはひたすら深刻で暗い話になるところを、主人公の大学時代のエピソードや父親とのエピソードを効果的に挿入することによって、息詰まる展開の物語にほっと息がつける間を作り、緩急のリズムを作っているところが心憎い。
 手に汗握るサスペンスでありながら、よく出来た青春小説であり家族小説でもあるなんて、伊坂幸太郎にしか書けない小説でしょう。
 過去があるから、「今」がある。読みながら、人間同士の縁の不思議を噛みしめ、思わず自分の学生時代のことを懐かしく思い出してしまった。

 ただ、ちょっとだけ不満が。物語の性格上こうなる他ないし、最高のラストシーンだとは判っていても、それでもこのラストには不完全燃焼を感じてしまう。ぶすぶすぶす。
 でも、細部にまでこだわって仕込まれた数々の伏線が見事に無駄なく回収されているので、読んでいてものすごく気持ちがよく、構成の素晴らしさに舌を巻く。娯楽性だけでなく強いメッセージが込められていて、名セリフの数々とともに、忘れられない作品になりそうだ。
 
 ぜーったいに映画化されますよね!見たい!