石神茉莉『人魚と提琴 玩具館綺譚』

人魚と提琴 玩具館綺譚 (講談社ノベルス)

人魚と提琴 玩具館綺譚 (講談社ノベルス)

 “静でいて驚!耽美でいて壮快!幻想にして娯楽!新人にして風格!”という帯の言葉が至極納得できる物語だった。物語の中心に人魚伝説がある衒学が散りばめられた幻想的な伝奇浪漫。
 「子供の頃、人魚を見たことがある」という涼子の不可思議な記憶を巡り、さまざまな謎が解き明かされるミステリ…と思って読むとそういう物語でなくて戸惑うが、“人里離れた山奥の隠れ里の土蔵の中に封じ込められた人魚と美少年が奏でるたぐいまれなるヴァイオリンの調べ”という絵が官能を刺激し幻想的で妖しく、とても魅力的な物語だ。
 気になったのは、不自然なほどに心配症の涼子の母親が「奈緒美」と「母」と混同して文脈の中で語られていること。読んでいて紛らわしい。さほど効果があるとは思われないのに、章によって視野人物が変わるのも、まどろっこしかった。[結局、父である智彦の死の原因は?泥棒もミナモリさんだったのか?]
 とはいえ、物語の雰囲気はものすごく好き好き。玩具館「三隣亡」のゾンビ好き店主T(モデルとなった人物がいるのかしら?)と、その妹で年齢不詳の美少女美珠のコンビがユニークかつ妖しさ全開で、これからぜひシリーズ化して、さらなる綺譚を収集して魅せて欲しいなと思った(私がゾンビ好きだったら、ゾンビについての蘊蓄がたまんなかっただろうに)。早くシリーズ2冊目が刊行され、読めますように!