岸本葉子『ちょっと古びたものが好き』

ちょっと古びたものが好き

ちょっと古びたものが好き

 せいこさんの感想を拝見して(id:chocolatbaby)、面白そうだと興味をそそられ、私も読んでみた。よく考えたら岸本さんの本を読むのは、これが初めて(積んでる本は何冊かあるけど)。初岸本体験です。
 岸本さんが普段使っているものや愛着があるものについて、なぜそのものに心惹かれるのか、品々を手に入れた由来にものにまつわる思い出について、ふんだんに写真を使ってあれこれ語ってくれるエッセイ集。
 大雑把にいえば“ライフスタイルを提案する”ってことなんでしょうが、岸本さんのお眼鏡にかなって集められた品々は、決して値の張るブランド品ばかりではないというところに、まず好印象を持った。あくまでも「ちょっと古びたもの」が基準。そのぶれない基準が好ましく、さらに「旅先での予期せぬものとの出会いにうろたえ、近くの銀行や郵便局に走る」なーんて記述に合うと、つい笑みがこぼれて、年上の方なのに微笑ましく思ってしまう。
 そうして手に入れたものを、ただ飾っておくのではなく、日常的に慈しみながらちゃんと使っているところも素敵だし真似したい。ちょっと手を伸ばせば、私にだってこんな風にお気に入りの品々に囲まれた快適でコジャレた生活ができそう。そう思えてくるから不思議だ。
 とまあ、初めて見る岸本さんの日常生活を、興味深くきょろきょろ眺めていたのだが、後半になるにつれ語られることが多くなってくる岸本さんのお母さまのことが、お気に入りの身の回りの品々以上に、心に残った。大人しく我を通すことがなかった方らしいけれど、芯が強かったお母さま。岸本さんのお母さまに、自分の母親の姿を重ねて見ていたのかもしれない。「心を満たす、捨てられないもの」で紹介された、水色のギンガムチェックの夏のワンピースに胸が熱くなった。そういえば私自身子供の頃に着ていた洋服は、母親のお手製のものが多かった。あの時は当たり前だと思っていたものが、母親の愛情の賜物だったとは。そして、今の今まで想い出の品々を色褪せさせることなく大切に保管し続けてきた岸本さん自身にも、同じ娘の立場の者として、頭が下がる思いがした。
 これを契機にして、積んでるエッセイも読んでみたい。本にまつわるエッセイも、面白そうだ。