飛鳥部勝則『ヴェロニカの鍵』

ヴェロニカの鍵

ヴェロニカの鍵

 装画に使われた鴨居玲の絵が象徴的で、とても印象的な作品だ。そして鴨居玲の生涯を知ると、どうしても作中の某人物と重ねてみたくなる。
 飛鳥部作品ではお馴染みにようにこの作品でも絵画がミステリに絡んでくる。ただそれまでの作品とは少しトーンが異なって、久我や郷寺など登場する画家たちの創作への狂気にも似た暗い情熱、描くことへの苦悩や業の凄まじさが前面に出ていて、とにかく圧倒される。あとがきで著者本人が語るように「失われた青春もの」でもあり、始終雲が立ち込めているかのような陰鬱な物語のトーンもかなり好み。猟奇的大量殺人は出てこないけれど(爆)、男同士の奇妙な友情を描いたほろ苦い青春もの、芸術の狂気を描いた悲劇の物語として、謎解きそっちのけで興味深く読んだ。
 ミステリとしては「密室」ものになるんでしょうが、、、まあ、それもありかなあと(汗)。(なぜそれが成立するのか、大量にページを費やして懇切丁寧に説明してくれるんだけど、私には謎解きよりもそっちの説明部分が失われた青春ものとして読んで面白かった。ただなんとなくすっきりしないのが、ヴェロニカのこと。何もこんなに最後の最後まで引っ張らなくても…とつい思ってしまう。作中で指摘があった他にも、作中登場する女性はすべて色でイメージされているから、ヴェロニカ=青なら、、、ねえ。思わせぶりだった薔子が結局登場せず、同じく探偵役を割り振られたのかと思わせぶりだったエマも途中退場、結局あの人物が、、、しかもなんだかなラストで(苦笑)ただ全てが去っていき、一人だけ見放されたかのようにぽつんと取り残され、何も残っていない久我には胸が痛んだ。)
 飛鳥部作品の、ミステリをミステリとして成り立たせるための小説が、その独特の雰囲気が、とても好み。もうちょっとでコンプなので、頑張りまーす。