上橋菜穂子『流れ行く者』

流れ行く者―守り人短編集 (偕成社ワンダーランド 36)

流れ行く者―守り人短編集 (偕成社ワンダーランド 36)

 「守り人」シリーズの番外編的短編集。13歳のバルサがどんな暮らしをしていたのか、人生のエピソードを切り取ってみせてくれる。
 短編が4編収録されているが、それぞれ独立しているようで繋がっているのが見て取れる。村に残り、バルサの帰りを待つタンダと、旅に出て、また村に戻ってくるバルサ。旅先で一瞬だけ人生が交錯し、触れ合ってのち永遠に別れる人達との、忘れるには鮮烈な出来事の数々。バルサの心の奥底に沈み込んでいくであろう先達の生きざま。
 まだ幼く弱い少女が、ここまで過酷な人生を歩んでいたのか、という驚きと痛み。心休める間もなく、命の危険に晒され続ける日々。そして生死の狭間を自分だけを頼りに生きのびてきたとは。この日々があったからこそ、あの女用心棒としてのバルサがあるのだとしても、タンダとのやり取りなど読んでいると、心が痛くなってくる。奪われてしまった人生を、もしバルサが歩んでいたら…仕方ないこととはいえ、つい考えてしまった。
 扱いとしては児童書だろうし、平板な言葉で書かれているものの、作品に込められているもの&作品から読み取れるものは深くて深い。しみじみ何度も読み返したくなるし、その後のバルサを思って、もう一度シリーズ1作目から再読したくなる。
 それにしても作品世界の設定のなんと緻密なことか!どこまで詳細に設定して書かれているんだろうと、そのヘンにも関心してしまう。たまりません。またこんな番外編も読んでみたいし、同一世界を舞台とするまた別の物語も読んでみたい。