フィリパ・ピアス『トムは真夜中の庭で』

トムは真夜中の庭で (岩波少年文庫 (041))

トムは真夜中の庭で (岩波少年文庫 (041))

 某SNSのコミュの企画絡みで、読んだ本。“児童文学の名作”と名高く、タイトルを見るにつけどんな作品なのか読んでみたいと思いつつ、結局今まで読む機会がなくて。企画絡みとはいえ念願が叶い、真夜中の庭でトムがどんな不思議な体験をしたのか知ることが出来て、本当によかった〜しみじみ。

 友だちもなく退屈していたトムは,真夜中に古時計が13も時を打つのを聞き,
 ヴィクトリア時代の庭園に誘いだされて,ふしぎな少女ハティと友だちになります.

 歴史と幻想を巧みに織りまぜた、「時」をテーマにした小説の古典とか。物語自体すごくシンプルで、勘のいい人ならすぐに結末の予想がついてしまうだろうし実際、「こういう結末の話だ」と予備知識を持って読み始めたものの、ストーリよりも、孤独なもの同士トムとハティが次第に心を通わせていく様子や背景となるヴィクトリア時代の自然の美しさの描写には心奪われるものがあった。
 これ、トムの一人称と視線を固定化して物語が綴られちゃいないとこがいいですね。トムとハティと、それぞれの側からこの「出会い」を考察してるところが興味深かった。トムは毎晩訪れているのにハティにとってはそうではないところ、逢う度にトムを置き去りにして変容し成長していくハティ。そして、、、。哀しいけど、一番納得できる美しい別れだったと思う。ラストシーンがあまりにも美しくて、久しぶりに心の底から感動した。
 時の不思議。時空を超えて共鳴し合う魂を描いた、幻想的でとてもとても美しい物語。児童書だからと侮ることなかれ。かつて子供だった大人が読んでこそ、作品を深く理解し分かる点が多々あると思う。「時」をテーマにした小説に興味関心のある人間なら、押えておくべき作品かと。読み終えて『ジェニーの肖像』が読み返したくなった。