本谷有希子『偏路』
- 作者: 本谷有希子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/09
- メディア: 単行本
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ニートの長男がいる叔母一家を巻き込んでの父娘喧嘩を、コミカルにシニカルに描いた戯曲。とにかく、登場人物みな個性的でキャラ立ってるので、やりとりを見ているだけでとても楽しいし笑えるのだ。夢の実現のために家族の迷惑顧みず上京したクセに、結果、実家に出戻りたいと言いだす我儘で傲慢な若月。そのことで責められると「若さゆえの特権よ!」逆ギレするクセに、田舎暮らしは退屈そうとうつろな目になるのよね(笑)。その父親も、この娘にしてこの親ありというか、すんなり「帰っておいで」なんて言わないばかりか、「お前が帰ってくるなら、入れ替わりに俺が上京する!」なんてトンでもないことを言いだす、ぶっとんだ人間だし(笑)。出て行った若月と対照的に配されるのは、夢を諦め、夢がなかったかのように田舎で堅実に暮らす若月の妹に従妹、現実が直視できず田舎でニートであり続ける(でも衣装はスーツ姿)従兄。
正月に四国の叔母一家の家に遊びに来て、そこで繰り広げられる家族のドタバタ劇なのだけど、一家団欒の仲良し家族のようだった叔母一家がだんだん父娘の負のパワーに浸食されて、いつしか崩壊。今まで抑えに抑えてきたどろどろした本音が飛び交うさまは圧巻だった(汗)。
登場人物らそれぞれがそれぞれに抱えている不満が、とにかく他人事ではなくて共感できるのがいい。
そして、夢をとるか現実をとるか。シビアな現実を突き付けられて、結果若月はどちらを選ぶのか。なんだかんだでエキセントリックでぶっ飛んだ人物に見えた父親の存在が後半に効いてくる。最初はどうなるのかと不安だったけど、こんな着地で本当によかった。笑い飛ばせるパワーと大きな包容力があって、、、この話、心に沁みる温かい家族愛の物語だったんですねえ。
活字で読んでも面白かったんだから、実際に演じられたお芝居だったら、どれだけの迫力だったんだろう。ぜひお芝居を生で観てみたいな。