村田喜代子『ドンナ・マサヨの悪魔』

ドンナ・マサヨの悪魔

ドンナ・マサヨの悪魔

 産む母親目線でなく祖母目線による妊娠小説を読んだのは初めてかもしれない。最初は娘の妊娠を手放しで喜んでいなかったのに。そんなマサヨににやりしつつ、マサヨが持つ不思議な能力で進化の過程をなぞるように成長していく胎児こと悪魔と、生と死と、会話を通じて学んでいき、いつの間にか祖母としてすべてを受け入れようと心境が変化していくさまが興味深かった。
 真摯なテーマを抱えた物語なのに、全体がユーモアのオブラートに包まれているところも好印象!私は大好き(胎児と祖母(老いた女)とが、「死に近しい場所にいる」者同士で交感できるという設定が素晴らしい。「なぜ人間の女だけが、生殖機能がなくなった後も長く生きていられるのか」に目うろこ。老いは必ずしも哀しくべきことではないんだと、励まされた気がする。次の世代に繋がること。「人間はずうっと死なないのかもしれん。長い一本の棒みたいにな。そこにあるのはただ世代間の交替だけかもしれん。」にじーん。胸が熱くなった)。