中村航『ぐるぐるまわるすべり台』文藝春秋 ISBN:4163230009

 綿矢りさ金原ひとみのW最年少コンビが芥川賞受賞した時に、候補作として挙げられてた物語。
 えーっと、簡単に言うと「バンドやろうぜ!」小説(笑)。最初から最後まで、ビートルズのナンバー「ヘルター・スケルター」が流れているよう。「バンドやろうぜ!」投げかけた言葉に呼応するかのように、何人もの人間の人生、夢が響いてくるさまが読んでいて気持ち良かった♪それまでの自分の人生をリセット。「バンドやろうぜ!」な心境になった動機は不明ながらも、「何か新しく始めよう」という気分になったのに……主人公はそれで良かったのかなあと。それだけがちょっと心配。ま、最後でまた違うアプローチ方法を見つけたようですが。

 僕は僕の物語であったかもしれない物語を語った。完結したのか、それとも始まったのか、遠い音楽は確かにそこにあった。一周回ったんだ、と僕は思った。一周回ったスタート地点は、かつて僕がいた場所とは違う。始めたこと、始めなかったこと、聞いたこと、語れなかったこと。一周回ったんだ、と僕は思った。ぐるぐるまわるすべり台に乗って僕らは回る。下に着いたらまた上に昇る。屋上では何回目かのヘルター・スケルターが鳴り響いていた。(p.108)

 この箇所がたぶん、この物語の肝で、そして私の好きな箇所でもある(ここに螺旋の話が収斂するのね!)。にゅいーんと笑うヨシモクがいい味出してます(笑)。
 同時収録の「月に吠える」は「すべり台」にリンクする前日談。工場の生産ラインとロックの一見、ミスマッチな組み合わせがツボ。“出会いの物語”かな。こちらも読了感爽やかで、なかなかにいいっす(*^^*)。
 著者略歴に“本書は『リレキショ』『夏休み』に続く「始まりの」3部作、完結篇である”の一文を発見。他の2作も、確か評判が良かったような。チェックして、ぜひ読んでみようっと♪