本日の読み終わり 大島真寿美『ほどけるとける』

ほどけるとける

ほどけるとける

 将来の夢も目的もなく、突発的に高校を中退し、祖父が経営する銭湯でバイトする主人公美和の日々がただ淡々と綴られているんですが、淡々として平板な日常の中にも、彼女を取り巻く常連客たちとの交流や淡い恋といったささやかなドラマがあって、そんな様子が微笑ましかったり、切なかったり。このままじゃダメだと思いながら、でもどうしていいのか判らない美和が、冷めてるようで、でも素直で正直で、すごくいいのよね。そんな彼女に、ついつい気持ちを重ねながら読んじゃいました。
 彼女を取り巻く周囲の人間たちも、悪意がないいい人ばかりだというのがちょっと引っかかるけど、クセがある、だけどいかにも居そうな人間臭い人たちばかりなのが、すごくいい。佐紀さんも魅力的だけど、個人的にはやっぱりフジリネンのおじさんがイチオシ。夢を巡るおじさんとの会話に、つい涙腺を刺激されて、鼻の奥がツーン。
 そんな彼女もついには目的を見つけ、目標に向って道を歩き出していくんですが、そんな様子はまるで心の中にいつの間にか出来たしこりがほろほろと溶け出していくような心地良さがあって、読了感も良かったです。いいなあ!こういう日々。
 お値段もお手頃だし、装幀も可愛いし、お気に入りの1冊になりそうです。