本日の読書 服部まゆみ『時のアラベスク』

時のアラベスク

時のアラベスク

 服部まゆみさん追悼のために、久々に再読する。1987年の第7回横溝正史賞受賞作。「デヴュー作品には、その作家のすべてがある」とはよく耳にする言葉だけど、真実だなとしみじみと痛感した。
 中井英夫を仄めかすような寡作な作家澤井慶。彼の“怪奇小説と純文学の見事な融合”“少年期のリリシズムを筆力豊かにうたいあげた、日本幻想文学史上に残る名作”と絶賛された作品『魔物たちの夜』が映画化されることになった。すると、澤井慶の元には脅迫状が舞い込み、小説の内容に沿う形で現実に事件が起こり、何人もの人間が死んでいくのだった。


 探偵の真似ごとをする人間がいるものの明確な探偵がおらず、主人公が傍観者でしかないのが今読むともどかしいのだが、とにかく犯人探しよりも、構築された独特の耽美的世界が強烈で、全編を覆う物憂げで陰鬱で退廃的な雰囲気にうっとり耽溺してしまう。脅迫者である謎の美青年糸越魁、ロンドンのダンジオン、ロンドン塔、パリのカタコンベ、そしてベルギーのブリュージュ。ベルギー象徴主義クノップフの幻想的な絵が、これほど重要な役割で使われていたなんて、我ながら驚きだわ!
 今回読んで再確認したのは、作品の根底に芸術至上主義的美意識があったこと。デヴュー作品からして、服部まゆみ服部まゆみだったのか。胸が熱くなるのと同時に、これほどの方がもういないなんてと、ますます悲しみが深くなった。ええ、いつまでも大好き。愛し続けますとも(涙)。


 この作風は好き嫌いあるでしょう(選評からして「なじめない」と公言されてる方がいらっしゃるし)。万人にはススメません。好きな人だけ、読めばよろしい。