本日の読書 早瀬乱『三年坂 火の夢』

三年坂 火の夢

三年坂 火の夢

 先に続編である『レイニーパークの音』を読んでいたので、順番が逆になるけど、シリーズ1作目であるこの作品を読む。第52回江戸川乱歩賞受賞作品です。
 物語の舞台は、20世紀を目前にし、大きく新しく変わろうとする明治時代。
 「三年坂で転んでね」と、謎の言葉を残して死んだ兄の死の真相を探るべく上京し、受験勉強をしながら三年坂を探す実之の物語「三年坂」と、予備校の英語講師で洋行帰りの高嶋鍍金(メッキ)が、東京全体を焼き尽くすことができる発火点を探る「火の夢」の2つの物語が交互に語られ、この2つの物語がどう結びつき繋がり謎が解けるのか、その興味で最後まで読んでました。
 「三年坂」のパートは、江戸から明治へ移行する際に没落した士族事情、庶民の日々の暮らしぶりや台所事情な詳細すぎるほど詳細に描かれていて、明治のその時代に生きる実之の青春小説として読めるところが良かったー。明治時代にも、受験生めあての予備校があったなんて、知りませんでしたわ。
 そして東京それ自体にも。「火の夢」のパートで指摘されるまで「坂の多い都市」という観点から、東京を眺めたことがなかったかも。
 途中中だるみしたり(東京の地理に詳しくないので、も少し詳細な地図が冒頭に欲しかった/涙)、設定がイマイチ活かしきれていなかったり、非常に思わせぶりだった「三年坂」が案外と…だったりがあったものの、最後に明かされる真相には、胸がじーんと熱くなった。大きく変貌しようとする時代だから、それゆえの変わりゆくものへの哀惜の念、、、。
 とにかく、読んでいる間じゅうずっと、明治の東京に生き、まるでこの目で見て体感しているかのようだった。作者によって描き出される明治の東京の、なんと魅力的なことか!ぜひまた作品を読んでみたい!!!
 そしてこの本を片手に、東京三年坂めぐりツアーをしてみたくなった…のは、私ぐらいでしょうかねえ(汗)。