本日の読書 北村薫『1950年のバックトス』

1950年のバックトス

1950年のバックトス

 1995年から2007年までの12年間に、ざまざまな媒体に掲載された短編、掌編を収録した作品集。ノスタルジックな郷愁を誘う話にぞくりとくるホラー風味の話、奇妙な味わいの話もあれば、落語を聞いているかのような語り口に酔う話、ひた寄せる老いの寂寥感にたまらなくなる話など、作風もさまざま。
 なんというか…いぶし銀のような大人の文章、小説だなと思った。しみじみと深い。なんともいえない感情が胸にすとんと落ちてくる。あと10年後、20年後に読んだら、今挙げた「好きな作品」と顔ぶれが変わってきそう。
 印象深かったのは、ついいつ来るかいつ来るかと身構えながら読んでしまった「包丁」、奇妙な味わいが好き「秋」、実はこれ、とてつもなく含みがあってエロティックな話なんじゃないかと思うんだけどどうかしら?な「かるかや」、ちょっとした日常の謎のミステリと見せかけて…のラストにじーんと胸が熱くなった「小正月」、長編にして書いてくれればいいのに、明朗なお話「1950年のバックトス」、ああ、またあの人たちと会えるなんて&挿入されるあるエピソードに胸がつまりそうになった(そして構成が素晴らしい!)「ほたてステーキと鰻」などなど。「洒落小町」や「石段・大きな木の下で」で描かれる夫婦の姿も、いいですね。いつか我が家にもそんな日が訪れるんだろうな>「石段」。なぜどうしてだか分らないけど「手をひやす」も、後々まで忘れられない作品になりそう。
 桜庭一樹さんによる書評が、新潮社のHPのこちらでよめます。