本日の読書 シャーリイ・ジャクスン『くじ』

くじ (異色作家短篇集)

くじ (異色作家短篇集)

 
 最初読み始めた印象は「そんなに怖くないじゃん」。それが2つめの「魔性の恋人」から「おふくろの味」「決闘裁判」と読み進めるうちに、打ちのめされることに。降参です。すげえ!
 ふとした瞬間にむき出しになり見せつけられる(まさに魔がさした!)何ともいえない人間の嫌らしさ、平穏な日常が隣人との不協和音によってガラガラと音をたてて崩壊していく怖さ不快感がどの作品からも立ち上がってきて…ぞくりと怖い。もっと恐ろしいのは、主人公を奈落の底に突き落とすやっかいな人物が他人事ではなく、まるで私自身が投影されて描かれているように感じてしまうことだ。いや〜ん(涙目)。
 収録されている22編中、「怖い」と感じたのが「魔女」「背教者」「おふくろの味」「決闘裁判」「大きな靴の男たち」そして「くじ」。「分かるわあ。私もやりかねない」共感できてしまったのが「ヴィレッジの住人」「麻服の午後」「曖昧の七つの型」「もちろん」。何ともいえず嫌らしかったのが「アイルランドにきて踊れ」。手厳しいラストが…絶句。
 「怖い」というよりも、人間の中に確かにある残酷で嫌らしい側面を、巧みな観察眼と描写力によって、鮮やかにほじくり出して描き出しちゃった作品集って感じ。読んでも気分爽快にならないし、毒気に中てられて読了感最悪で鬱々だし、でもでもでも。それだからこそ、強く印象に残って決して忘れられないというか。
 60年近く前に発表されたというのが嘘みたいに、今読んでも十分に通用する「奇妙な味」の魅力ぷんぷんの物語。堪能した!!!