本日の読書 松井雪子『日曜農園』

日曜農園

日曜農園

 第131回芥川賞候補作。131回って、、、雑誌掲載されてから、随分と時間が経ってない?松井雪子さんの作品を読むのは、漫画も小説も、これは初めて。期待せずに読んだけど、不思議なおかしみがあって面白かった。かなり好きかも。
 高校生の萌が、一年半近く放置されたままの雑草だらけの畑に嫌々行き、草むしりするシーンから物語は始まる。家庭も畑も、なぜこんなに荒涼として殺伐としているのか疑問に思ったんだけど、読み進めるうちに徐々に、父親の失踪による不在な事実が浮かび上がってくる。
 父親がしていたように、日曜日ごとに畑に行って、熱心に農作業する萌。まるでそうすることによって、父親を追体験。今まで知らなかった(知ろうとしなかった)真の父親の姿を引き寄せ、理解しようと努めているかのよう(この父親っていうのが、日曜農園では別人格で、農園作業の記録を綴ったHP「みみずやちょろのすけの日曜農園」まで主催してるの。で、このHPがいかにもな感じで、すっごくリアリティがあるんだな、これが!)
 父親の不在が家庭に影を落としているかのようで、それを跳ね返すかのような残された女性陣の逞しさと、妙に乾いたユーモアと底意地の悪さが漂い、単なるいい話ではないところが気に入った。ただ、萌視線による物語でもいいと思うのに、ひたすら体を鍛える母親の笑子、祖母のハルエの視線まで投入されるのがちょっと。それも、ヘンに説明的だし。
 脇役で登場する、日曜農園の主のようなエノキさんの存在が、いい味出してます。きっとHPも…なーんてね。
 [父親の失踪の理由すら結局、明かされないのが残念だけど、萌の成長物語としてはこれでいいのかしら?]
 こーんな風変りな家族の再生の物語も、いいかもしれない。