澁澤龍彦『高丘親王航海記』

高丘親王航海記 (文春文庫)

高丘親王航海記 (文春文庫)

 「澁澤龍彦幻想文学館」を訪れるまでに、何が何でも読まねばーで読んだ本。で読み終わって、「何で今までにこの小説を読まなかったのか。私のバカバカバカバカ!」と、自分の不甲斐無さを嘆きまくった本(号泣)。
 一言でいえば、「澁澤のエッセンスがぎゅっと詰まってる贅沢な本」かな。澁澤初心者はまず最初にこの本を読んで、この本から入門するのもありかもしれない。
 広州を出発し、あちこちに寄港しながら天竺を目指す親王の旅は、はっきり言って死出の旅だ。親王澁澤龍彦本人の姿に重なり、作品に死の予感が漂っているのだけども、死への悲愴感がさほど感じられず、それなのに物語のトーンはからっとして明るく、官能的で夢幻的に綴られているのが目を惹く。そう、大半は親王の夢のお話で、どこからが現実でどこまでが夢なのか、その境界があいまいで、不思議な浮遊感を醸し出している。親王が訪れる先々の国もどこか現実離れした不可思議な国々ばかりで、もしかしてこの旅そのものが親王が夢みる夢の中での出来事なのかもしれないと思えてくる。うっとり。
 夢の中で登場する薬子が強烈な魅力を放っているばかりか、全体を通して親王を導く、なかなかに暗示的な役割を果たしているのも印象的。ラストの「頻伽」での石のエピソード、もしかして親王の生まれ変わりが澁澤?と思ってしまった私です。
 単行本で読めば、見返しの部分にある澁澤の手による親王の旅の地図を見ながら、作品が読めたのよね。文庫版には地図がなくて残念。何が何でも単行本版を入手せねばー!