恒川光太郎『秋の牢獄』

秋の牢獄

秋の牢獄

 なんか、、、この作家は長編よりも中・短編向きなのかなと思った。ダイナミックなストーリ展開でぐいぐい読ませるというよりも、ワンアイデアを読ませる雰囲気づくりがとても上手い感じ。
 表題作の「秋の牢獄」は、11月7日に閉じ込められてしまう、まさしく“秋の牢獄”に閉じ込められてしまう主人公の話。夜寝ている間にリセットされ、朝目覚めるとまた11月7日。主人公だけ何度も何度も11月7日を繰り返すことになるのだが記憶だけはリセットされずに、蓄積されていく。世界で私だけ、11月8日の世界に行けない孤独と寂しさ。そして不安と哀切と。この孤独と寂しさが、ただでさえ物悲しい秋という季節にぴったりと合っているのがいい。
 何度も繰り返すうちに、主人公の身にも変化が訪れるのだけど…。それが状況を打破するための救いとなるのか。なって欲しいなあ。とても切ない読み心地。
 「神家没落」は、マヨイガ伝説を思い起こさせるお話。でもなんといっても“秘密の細い抜け道を通り抜けた先にある藁葺き屋根の民家”という絵が素敵すぎるほど素敵なのだ。春の夜、朧な満月に照らされた民家という幻想的な情景が、ありありと目の前に浮かぶかのよう。ほーんとにこの作家は“日常のすぐそばにある異界”を描き出すのが、むちゃくちゃ上手い!!
 昔話を周到に踏まえてるんでしょうが、アレンジの仕方に工夫があって、だからこそのこのタイトルなのかと、腑に落ちたり。邪な心を抱いちゃいかーんってことですかね。
 読みながら3作品の中では、「幻は夜に成長する」が一番好きかもと思ったんだけど、冷静になった今振り返ってみると、どうかな?と思ったり。
 不思議な力を持ってしまった女の子が、なぜ今こんな状況に甘んじているのか、自らの人生を振り返って語る物語。やはり映像的に強烈なものがあって幻想的ながら、とても恐ろしい話。物語は終わったものの、ここからが新たな幕開けで。その後の世界を垣間見てみたいなと思った。
 どの作品も好きで、1番好きを決めるのが難しい。強いて言えばほろ苦い余韻を残しながらも、きちんと物語が閉じている「神家没落」かな。どの作品でも醸し出されてる幻想的で美しい雰囲気が大好き。ぜひ「世にも奇妙な物語」で映像化して欲しい。見たいっ!!!