伊坂幸太郎『フィッシュストーリー』

フィッシュストーリー

フィッシュストーリー

 年末までに積んでる伊坂幸太郎作品を読もうキャンペーンの第一弾(笑)。まずは年初に刊行された『フィッシュストーリー』から。四編収録された作品集。前半二編が雑誌掲載時に読んで既読だったので、後半二編を楽しみに読む。
 「動物園のエンジン」は、ミステリではあるものの、村上春樹の短編を思い起こさせるような不思議な佇まいのお話として読んだ。他の作品とのリンクを見つけて、探したくなる。
 「サクリファイス」は『ラッシュライフ』のスピンオフで、あの黒澤が登場。人探しで訪れた村で見聞きした出来事が実は…という話。謎解きよりも、人情話に「サクリファイス」の意味に比重があるように感じた。黒澤ファンにはたまらない(笑)。
 四編の中では、表題作でもある「フィッシュストーリー」が一番良かったかも。晩年は廃屋にこもり、壁に文章を書き続けたと言われる日本人作家の遺作の言葉が、形を変え、時空を超えて、奇蹟を起こす。まさに「風が吹けば桶屋が儲かる」を地で行く話(笑)。性善説っぽいところがちょっと…と思わないでもないけど、そうなったらいいなという祈りが込められているのかも。胸が熱くなる。ちゃんと届いているよ。
 読み進めていくと物語の全貌が判る「ポテチ」。あの作品のテーマに通ずるかもしれない。と思ったら、あの作品に登場したキャラのことが仄めかされていて笑う。今村が今村ゆえに、しみじみといい話。p.231の6行目〜9行目がいいですねえ。ラストがすかっとすっきりする。あ、黒澤が再登場します。
 とはいうものの、伊坂幸太郎はどこに行こうとしているのか、そんなことをつい考えさせられてしまう作品集だったかもしれない。最新作の『ゴールデンスランバー』を読めば分かるのかな?