乾ルカ『夏光』

夏光

夏光

 6編収録された短編集にしてデヴュー作。新人のデヴュー作とは思えないレベルの高い短編集だった。ジャンルのくくりでいえばホラーになるんでしょうが、見せ方にちょっとした心憎い工夫があって、単なるグロテスクな怖い話にせず、人の心の柔らかい感情に訴える叙情的な物語にしているところがたまらない。読んで驚く驚愕の作品集でした。凄いよ〜巧いよ〜。それにしてもこの人、名前で損してると思う。だってこれじゃ、携帯小説出身の作家の本かと間違えちゃうじゃないか!
 真っ先に第八十六回オール讀物新人賞受賞作である「夏光」が収録されていて、まずその作品で度肝を抜かれる。戦争末期、疎開してきた少年と顔に黒い痣がある少年との友情を描く。戦争中の、それゆえに異分子である二人へ向けられる陰湿でグロテスクなむき出しの悪意が、読んでいて居たたまれなくなる。この子供たちの行く末が心配で心配で、見てられない読むのが怖いほど(あるものを食べるシーンがあるんだけど…強烈。臭いや食感まで伝わってきそうな迫力の描写力に脱帽)。
 が、切なくとも厚い友情の物語かと思って読んでいると、途中でトーンが変わって、あれ?あれ?あれ?と思っていたら…
そう落とすのかっ!orz。私にとって「夏の葬列」並みかそれ以上のインパクトで、脳みそに刻まれた作品となりました(涙)。土地勘がある人はそうそうに気づいちゃうかもしれないけど、最後まで読んではじめてタイトルの真意に気付いて…
ああ、心が痛い苦しい(涙)。
 2編目の「夜鷹の朝」は、、、村田基「白い少女」をなんとなく思い出した、と言ったら、ネタばらしてるでしょうか。グロテスクな話を、胸が痛むような切ない話にしちゃってるのは見事。だけど、続けて読むとちょっとねえ(汗)。
 3編目の「百焰」は、美しく気立てがいい妹に嫉妬する醜い姉の話。姉の言い分は分るけど…まあ、普通。
 4編目の「は」は、なぜ体格も良く屈強な友人は右肘から先を失うような大怪我をしたのか。なぜ退院祝いの宴で出されたものを、残らず食べなければいけないのか。すべて食べ終えた時、何が起こるのか。
 食事シーンの描写が、なんともいえず食欲を誘うものの、打ち明け話が進むうちに徐々に事情が分かってきて…というストレートなホラー話。ウチにもこれがいるので、びくびくしながら世話することになりそう(汗)。でも[金魚を食べたらどんな味がするんだろう?ってよく考えるので、この作品もなんか判る気がする(笑)]。
 5編目の「Out of This World」は、虐待される子供(タク)の話なんだけど、描き方の視点を意図的にズラしてるので、可哀想で居たたまれない子供の話ではなく、キラキラ光り輝くようなかけがえのないひと夏を描いた少年たちの友情の物語になってるところが秀逸だと思った。タクも「神秘性を帯びた不思議な少年」と一貫して描かれていて(あの不思議な音は結局、なんだったんだろう…)将来の夢を語るシーンで、不覚にも涙してしまったよ、、、。
 6編目の「風、檸檬、冬の終わり」。これもいい。人間の感情の匂いが嗅げる不思議な能力を持つ少女と、人身売買の挙句、臓器摘出されて殺されるために日本に連れてこられた少女との交流の話。なぜ少女は、絶望に堕せず希望を持っていられるのか、主人公が嗅いだあの少女の匂いとは。希望の欠片もない残酷すぎるほど残酷でむごい話なのに、、、最後の一行で、心臓鷲づかみにされた。琴線に触れる話。なにげに達観してる高田もいいキャラだったり。
 大人の世界からスポイルされた子供たちが身を寄せ合い、創り上げる世界を描いた作品が、抜群に上手い。そして、収録された6編とも、体の一部分が異質だったりと拘った作品ばかりで、そういう隠しテーマで単行本を作るとは、まったくもって心憎い。これからの活躍が、とても楽しみな作家さんです。要チェック!!!