大島真寿美『やがて目覚めない朝が来る』

やがて目覚めない朝が来る

やがて目覚めない朝が来る

 自分の祖母のことを、祖母が生きたという証を、孫である私はどれだけ知っているのだろうかと、読み終えて思った。
 特殊な環境で育った主人公は、たくさんの善意の大人に囲まれて大切に育つ。血のつながりはないものの、父方の祖母を核として、それ以上の絆で結ばれている人たちが集まって形作る大家族のにぎやかさ温かさ。そして、成長するにつれて、大切な人が一人一人と亡くなっていなくなっていく淋しさ侘しさ。それが瑞々しくも透明感ある筆致で、ゆるゆると淡々と描かれている。
 『ほどけるとける』を読んだ時にも思ったけど、主人公があくまでも視野人物で語り手で個性がなく、自分を通り過ぎていく人間をぼんやり観察し受け入れる受身な存在というのが面白いと思った。
 この作品は冒頭で語られるように、蕗さんという大輪の薔薇のような華やかで強烈な個性を持つ元舞台女優であり、恋に生きた一人の女性であり、祖母である女性の物語なのである。私は蕗さんの生き様に惹き込まれて読んだけど、好き嫌いはありそうな作品ですね。