久保寺健彦『みなさん、さようなら』
- 作者: 久保寺健彦
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2007/11
- メディア: 単行本
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「ブラック・ジャックではなく大山倍達」「ともに団地住まい」など、『ブラック・ジャック・キッド』を連想させる部分があるけど、“団地から出たくとも出られない”設定がとても効いてる。小学校の卒業式以来団地に引きこもり、団地を全世界として生きてきた悟の少年から一人前の大人へと成長していくさまを、悲喜こもごものエピソードを織り交ぜながら描く成長の物語だ。そして悟の目を通して語られる団地の年代記でもある。「なぜ出られないのか」「なぜ体を鍛えるのか」。その理由が明かされたとき、物語の様相は一変する。
一緒に卒業した同級生106人が、歳月とともに一人また一人と団地からいなくなっていく。そして悟の成長と反比例するかのように、新築だった団地は、老朽化し荒廃していく。年月の移ろい、歳月の重み。読書しながら、まるで小学生からの悟に寄り添うように一番近くにいて、ともに歳月を重ねているかのような気分になった。
悟を支える周囲の人間がいい。唯一の社会との接点だった幼馴染の松島、雇い主であり、悟のことをもしかして息子のように思って心配してたんじゃないの?なタイジロンヌの師匠、悟同様この団地が世界の総てだったのかもしれない薗田、サッカー少女マリア。そして不在がちながら存在感が強く大きかった母親のヒーさん。最大の関心事は「悟が団地から出られる日が来るのか?」なんだけど、、、そりゃ一大事ではあるものの、「こんなもんか」が正直な感想だった(汗)。この小説、成長小説でありながら少年時代を回想した郷愁小説でもあるんだけど、その設定が生かしきれてなく、中途半端な気がした。それだけが残念だ。
男性目線の少年成長小説なので、バカ正直に書かれた「性の目覚め」のシーンあたりでこっぱずかしくなったけど、団地少年小説として読んで面白かった。悟と一緒に成長した感があるので、読了してどっぷり老けこんだ気分(笑)。次回作も少年小説なのかな?期待大。