川上弘美『大好きな本』

大好きな本 川上弘美書評集

　分厚さに身構えて読み始めたけど、するする読んでしまった。今までに新聞紙上や巻末の解説などで発表した書評をまとめた書評の本だけど、どの文章もいわゆる書評っぽくない。特に前半はまるで川上弘美の小説を読んでいるかのようなふわふわいい気持ちで読んだ。作家であるけど、その前に一読者で、一読者として素晴らしい本に巡り合えて読める喜び、幸せが文章からひしひしと立ち上がってくる。
　後半は、一読者ではあるものの同じ作家として創作者としての鋭い視線が光る文章だ。私も読んだことがある作品がいくつか取り上げられていて、どこがどういいのか、言葉に表せずもどかしく思ったのだが、ここで川上さんの書評によって丁寧にすくい上げられ、鋭い視線と深い洞察力で考察し語りかけて教えてくれる。「なるほど。そうだったのか！」何度思ったことか。
　書評として取り上げられている本すべて―未読のものも既読のものも―読みたくなる。読んでからまたこの本を開いて、川上さんと語り合いたくなる、そんな書評集。大好きな本について一生懸命語りかけてくれる川上さんの姿が見えるかのようで、いい気分になった。