井上雅彦編『物語の魔の物語』

 
 某SNSの二月の課題本である『津軽』を発掘中に、期せずして掘り出した本の中の一冊。小松左京、都築道夫、花輪莞爾、星新一、堀晃、夢枕獏横溝正史といった豪華なメンバーの作品が収録された「異形ミュージアム」の一冊。表紙にあるラインナップを見たら、あの岸田今日子さんの作品まで収録されているじゃないか!我ながら、持っていたとは驚き。で、読書予定を急きょ変更して、読書した。
 異形コレクションが新たに書き下ろしされた作品を収録するのに対し、こちらはテーマに相応しい既に発表された名作を収集した、まさにミュージアム。そして文字通り、「物語」の「魔」を巡る「物語」ばかりを集めたアンソロジーだ。物語に絡め取られてしまったり、創作物であるはずの物語が現実の側にはみ出しじわじわ侵食する…などなど、メタフィクション、メタ怪談な物語を集められ、物語の持つ魔の魅力、面白さを存分に味わえる内容になっている。摩訶不思議な物語に幻惑されて、クラクラする。
 収録された13編のうち、“魔の物語の魔”である小松左京「牛の首」、“魔の物語の物語”である井上雅彦「残されていた文字」、岸田今日子「セニスィエンタの家」、横溝正史「鈴木と河越の話」、星新一「殺人者さま」、そして“物語の魔の魔”である夢枕獏「何度も雪の中に埋めた死体の話」が印象的で戦慄した。怖い!ぞくぞく。作品のいづれも、もともと収録されていた作品集まで読んでみたくなる。
 この本は「異形ミュージアム」シリーズの2冊目。ぜひ1冊目の『妖魔ヶ刻 時間怪談傑作選』も掘り出して読んでみたい。って、私、持ってたっけ?編者である井上雅彦氏による作品解説も読み応えあり。