太宰治『津軽』

津軽

津軽

 某SNSコミュの2月の課題図書。私にとってはすごく久しぶりの再読。ススメられて未知谷の『津軽』で読んだのだけど、桜と岩木山など『津軽』にゆかりのある風景の写真が多く掲載されていて、津軽の土地柄が少しでも味わえるのがいい。昭和19年春だから、小説の舞台となるのは60年以上も前のこと。だけど文章から、当時の津軽の風景が目に浮かぶよう。文章は当然のように旧仮名遣いなんだけど、それを感じさせない読みやすさにビックリ。
 津軽の風土史、郷土史を…と依頼された本だったそうだけど、自伝的要素が強い小説だ。津軽各地を巡っては知人たちと再会し、戦時中なのにこれ以上ないほど厚い心づくしの歓待を受け、酒を飲み交わすシーンが印象的だった。「思ひ出」からの引用が思いのほか多くあり、まるで小説の内容を自分自身で検証する旅だったかのよう。郷土である津軽を巡る旅は自らのルーツを訪ねる旅で、それは自伝小説としたら「母を訪ねる旅」で、そうした流れであのたけとのシーンがあったんですねえ。練りに練られた構成が見事。しっかし、こんなにも“朝っぱらから飲んだくれて蟹を食べる”話だったなんて!最後の最後のたけとのエピソードが強烈すぎるほど強烈だったから、綺麗さっぱり忘れていたわ(苦笑)。っていうか『津軽』と言ったらたけとのシーンなのに、分量的にこんなに短かったんですねえ。またまた驚き。
 それにしても太宰の文章は名文が多すぎ。結びの文章も、これ以上ないほど格好良すぎますが、本文の冒頭も、ひれ伏したくなるほどのキザっぷり(笑)。かと思うと、歯切れのいい文章は喜怒哀楽がダダ漏れしていて感情表現豊かだし、飄々としていてユーモアがあって、読者としてはつい感情移入させられて読んでしまう。にやにやにや。
 久しぶりに読んだ太宰作品だったけど、やっぱり太宰はいいなあ。私まで「太宰が大好き!」を再確認(笑)。それにしても、この作品発表の4年後の心中、だったのねえ、、、。