道尾秀介『ラットマン』

ラットマン

ラットマン

 道尾作品のことを“ハデハデでトリッキー。そしてブラックでビターな作風”と思っていたので、本書が(仕掛けがあるんだろうなとは思ってたけど)姫川の丹念な心理描写が続くどちらかというと地味な作品だったので、ちょっと拍子抜け。そして謎解きよりも、謎が解かれることによって辿り着いた真実の姿に胸が熱くなる、人死には出るけどいい話だったのにも驚き。いろんな意味で“らしくない”、今までのイメージを裏切る作品だ。こういう物語も書けるんですねえ。しみじみ。タイトル「ラットマン」の持つ意味がすごく効いている家族の回復の物語だったと思う。
 キーワードは「コピー」と「ラットマン」と「家族」か。事故だったのか事件だったのか明言されていないばかりか、思わせぶりに描かれているので、どんな風にかきっと過去の事件が今現在の事件に影響を及ぼし、繋がることになるんだろうなあと思いながら読んでいたら、あんな風に繋がるとは。驚いた。二転三転の果てに辿り着いた真相には、胸が熱くなった。結局、こちらが物語のメインだったんじゃないの?(笑)[ま、ひかりのお腹の中の赤ちゃんの父親は、姫川じゃないんだろうなあとは思ってたけどね。実の父親が相手かと思ってた!]。
 思い込みによって、視野を狭くしてしまうことって日常的に良くあることだと思う。いつも見慣れているモノもちょっと見方を変えると、新鮮な面が見えてくるのかもしれない。なんにせよ、「こうだ」と決めつけて柔軟さを欠くことはよくないですな。