新井素子『ちいさなおはなし』

ちいさなおはなし

ちいさなおはなし

 久々に読んだ新井素子さんの本は、ショートショート集だった。何でも星新一ショートショート・アンソロジーを編むという仕事で全作品千一編を何度も読み返しているうちにご自分でもショートショートが書きたくなって、そんな折にショートショートの依頼があったのだとか。
 収録されているのは全部で15話。起承転結のメリハリがあって、オチの切れ味抜群のショートショートを期待すると「?」かもしれないけど、どの作品も不思議で可愛らしくて心温まり、読み終えてにっこり笑いたくなるような小さなメルヘンばかり。語り口調がいかにも素子さんらしくて、思わずにんまりしてしまう。
 私の好みは「かあてん」「ひみつ」「くものいと」「おと」「たまご」「のっく」など、後半の作品。つい涙腺がゆるんでしまった「かあてん」、メルヘンかと思いきや衝撃的な幕切れで、このひとつだけ異質な感じがした「たまご」、「のっく」はまさに星新一へのオマージュになっていて、感慨深かった。