黒史郎『夜は一緒に散歩しよ』

夜は一緒に散歩しよ (幽BOOKS)

夜は一緒に散歩しよ (幽BOOKS)

 不可解な怪奇現象に神経に障る不気味なエピソードを重ねて、読者を恐怖に慄かせ震え上がらせる雰囲気づくりはとても巧いしよく出来ていると思ったのだが(千秋ちゃんが描く「青い顔の女」の絵が、半端じゃなく怖い!)、ストーリ展開がイマイチ。読み終わって「結局何だったの?」もやもやした気分が後を引く。
 人気ホラー作家の横田卓郎は妻三沙子を亡くし、幼稚園児の娘千秋と二人暮らし。千秋は母親の死後一年経つ頃から、奇妙な絵を描き始める。どうやら千秋には普通の人には見えないものが見えるらしい。異形のものばかり描いていた千秋は、ある時から「青い顔の女」ばかり描くようになる。そしてその絵の女を「ママ」と呼ぶ、、、。

 何かに取り憑かれたように「青い顔の女」に執着し、エキセントリックに過激にエスカレートしていく千秋ちゃんが半端じゃなく怖ろしい。これ、なぜ千秋ちゃんがこんな風になってしまったのか、その原因を探る話だと思って読んでいたんだけど…途中で転調するので驚いた。[死んだ三沙子が娘千秋に取り憑き、千秋に災いしようとする人間を排除し、死に追いやってるのかと怖がりながらもハラハラドキドキ手に汗握りながら読んでいたら…まるで『リング』なんですもん(苦笑)貞子に当たるのが三沙子の大学時代の友人魔耶美なんだけど、この登場のさせ方は伏線があるものの、ものすごく強引に思えるお散歩コースの黒い川もいわくありげに用いられていて雰囲気を盛り上げはするものの、怪異の根源としては説得力が薄い気がする。
 結局、千秋ちゃんはなぜあんな風になってしまったのか何が理由で、卓郎の周りの人間が死んだのか紙芝居を見ると死ぬのか三沙子の死に魔耶美が関係しているのか三沙子と魔耶美と美樹は似てるのかなぜ卓郎や美樹は死なないのか卓郎の住む町で死者が出ているのは、魔耶美が関係しているのか?などなどなど、作中はっきり説明されていない点が多くて、もやもやが残る。ふう
。]
 どんなことをされると人間は不快に感じるのか、そんな神経に触る描写がものすごく巧い。才能ある作家さんなんだなと思う。今後の活躍に期待。