上田早夕里『美月の残香』

美月の残香 (光文社文庫)

美月の残香 (光文社文庫)

 物語のキーワードは「双子」と「香り」か。双子同士のカップルが織りなすスリリングな愛憎の物語。すんごく面白かったー。先の展開が気になり、物語に引き込まれて一気読みしてしまった。

 遥花は奔放なふたごの姉・美月に複雑な思いを抱いていた。常に比べられることへの反発―。が、二人が選んだ相手もまた、ふたごの兄弟だった。傍目には幸せなカルテットの誕生だったが、新婚間もない美月が、突然、謎の失踪を遂げた。後に残されたひと瓶の香水が引き起こす思わぬ愛憎劇とは? (裏表紙より)

 どのページからもまるで香りが立ちあがってくるかのよう。嗅覚と官能を刺激する物語だ。誰にも言えない望みを香水の力で叶える魔術師のような調香師が作った香水に、双子同士のカップル4人の運命は翻弄されることになる。
 突然の美月の失踪。後に残された夫の真也は、妻が残して行った香りに異様なまでに執着する。そしてその狂気ともいえる執着は、美月の双子の妹である遥花へと向かう、、、。
 遥花は、徐々にエスカレートしていく真也―夫である雄也とそっくり―の誘惑を拒みきることできるのか、それとも陥落してしまうのか。そーんな下世話な興味から手に汗握りながらハラハラドキドキ読んでいったら、、、思いがけない仕掛けに驚かされてしまった。そういう伏線があったなんて。驚きつつも、妙に納得。一卵性の双子に対する甘美な幻想をこの物語で見事に表現していただき、本当に嬉しい。大満足。[個人的には、思わせぶりだった美月の失踪の、その理由がはっきり明かされなかったのが残念だ。]
 上田さんの作品はまだ『ラ・パティスリー』しか読んでなくて、小松左京賞を受賞したデヴュー作の『火星ダーク・バラード』すら読んでいないんだけど、こういう濃密な官能が滴る作品も書かれるんだーと驚きつつも嬉しくなった。こういう作品、大好物ですもん(この作品もぜひ名香智子さんで漫画化して欲しいー)。これから上田作品に注目しつつ、読んでいきたい。