朱川湊人『スメラギの国』

スメラギの国

スメラギの国

 怖いだけじゃない郷愁のホラーで名を売った作家の猫ホラー。とはいうものの後半は心温まる猫ファンタジーか。復讐されるような真似をした人間が悪いんでしょうが、、、とにかく人間に牙をむく猫と人間との死闘シーンが壮絶。猫に神風アタックされるような真似だけは、ぜーったいにしないようにしようと、固く心に誓ったわ。
 しっかし、、、猫好き、動物好きには読むのが辛い作品かもしれない。身を守るためとはいえ志郎が猫にする暴力が微に入り細に入ったものなので、志郎が受けた感触がまるで読み手であるこちらにまで伝わってくるようで、嫌悪感でうげげげげ(涙目)。
 ちょっとしたボタンの掛け違いが引き金となって次第にエスカレートしていき、取り返しのつかないところまで行ってしまうことは、日常的によくあること。行くところまでいってしまったこのバトルをどう収拾させるのか、とても興味があったんだけど、、、まあ、無難に収めたなという感じ。
 とはいうものの、子供を亡くした親の哀しみには同じ親としてものすごく共感したし、バリバリホラーな志郎の物語とどう繋がるのか判らなかった村上の物語が、あんな風に繋がろうとは。ただ怯え怖がらせるだけのホラーにはせず、心温まる猫ファンタジーにしてしまうところが、いかにもこの作者らしい。そうそう猫って、人間には見えないものが見えるのよね、ほっこり。
 気になったのは(「新しい猫」の新しさ、どんな風に新しくなったのか、新しくなったゆえの有難味が描写からはよく分らなかったので、アイスの最後の言葉がピンとこなかった。ので、なんでどの猫もオウさまのために命をあっさり捨ててしまえるのか、不思議だった。しっかし、チョコの能力はあのまんま消えないのか?自らが招いたこととはいえ、志郎の罪の意識も生涯消えないだろうし。怖ろしく惨たらしいシーンもあったけど、最後は切なくもいい話で終わったからめでたしめでたし、、、じゃないよねえ、この作品は/汗)。
 とんでもなく惨たらしいことになってるのに、苦悶しつつもエンタメ作品として楽しく読んでしまった私は、人としてどうなの?という気もするけど、朱川さんのいい人ホラーではない一面が読めて、私としては満足。内容を知った上でこの単行本装丁を見ると、かな〜り恐ろしい。ぶるぶるぶる。