飛鳥部勝則『バラバの方を』

バラバの方を (トクマ・ノベルズ)

バラバの方を (トクマ・ノベルズ)

 飛鳥部作品のタイトルはどの作品も意味深で、最後の最後まで読まないとタイトルの意味が分からない。この作品『バラバの方を』もそれは同様。「…バラバって何?」訳も分からず読み始めて、バラバがキリストを磔刑にするために恩赦を受けた罪人の名前だと途中で知らされても、最後の最後までなぜこのタイトルになったのか、その意味が分らなかった。読み終えた今となっては、内容を的確に表現したぴったりなタイトルだとしか、思えなくなったからとても不思議。

大物画家の私設美術館の開館日。展示室のドアを開けると、そこは…死体の山だった。オープンを祝う(呪う)かのごとく、聖者殉教の絵そのままに、老人や少女が、腸を引き出され、乳房を抉られ、歯を抜かれ、針鼠になり…。「聖エラスムスは腸を引き出されて殺されるであろう。聖セバスティアヌスは矢を突き刺されて…」招待客の新聞記者・持田の許に届いた不気味な手紙は、殺人予告だったのだ。血まみれの悪夢、狂気の大事件の幕が開く。

 冒頭から死体の山。しかも惨殺死体。殺される人間も生き残った人間もどっか性格的に歪んでいてイっちゃってる人間ばかり…と、とにかく陰惨で過剰。なのにノベルスらしく、するすると読めてしまうリーダビリティの高い作品だ。
 冒頭第1章にあたる「死の舞踊―何が起こっているのか」で、事件の大まかな様相が読者には明かされ、誰が犯人なのか見当がついてしまうのだが、続く第2章、第3章でとある人物が動き回ることによって、なぜそうなるに至ったのか、懇切丁寧に動機を教えてくれる。そして、、、驚愕のラストが。
 この作品では飛鳥部作品ではお馴染みの「ミステリに図像学を持ちこむ」がさほど活かされていなかったのが残念。謎解きよりも正常と異常の境、狂気を描きたかったのかも。あてられまくってもう…お腹がいっぱい(汗)。ラストのおまけがとても印象的だった。っていうか、めっちゃ好み(笑)。本格ミステリな飛鳥部作品もいいけど、ホラー&幻想小説な作品をもっと読んでみたいー!