川上弘美『風花』

風花

風花

 夫に、愛人がいると分ったら、そして離婚して欲しいと切り出されたら、どうする?自分はどうしたいのか、自分自身の気持ちさえ測りかねて戸惑い揺れる主人公のゆりの想いを、四季の移ろいの中で描いたお話。こういう小説、別に川上さんが書かなくてもいいんじゃないかと思うんですけどねえ。ただ、そこは川上さん。あまり好きな話ではないのに、最後まできちんと読んでしまった。
 のゆりの離婚問題が物語的には重要なんでしょうが、単なる「夫に本気の浮気されて戸惑う妻の物語」にしないところがさすがだと感心。叔父の女性問題のあれこれ、幼い頃に冷たい雨のなか母と山を歩いて越えたエピソード、別れたいと言いながら男女二人だけの濃密な関係をわざと見せつける愛人、年下ののゆりの恋人など濃厚な男女関係の機微が淡いのゆりの物語に絡んで、恋愛や結婚が抱えるひんやりとした陰の部分を浮き彫りにする。どっちつかずの気持ちを抱える日々、のゆりがふと気づく“反復するだけで過ぎる日常への恐ろしさ”にぞくりさせられた。ええ、結構怖い話です。
 とにかくうすぼんやりしててかまととぶってて、一人だけトーンが違った空気をまとっているかのような主人公ののゆりが嫌いで、読んでいてイライラさせられまくりだった。追えば逃げ、逃げればおう関係はまあ、、、お約束という気もするし。なので途中で壁に投げつけずにきちんと最後まで読めたのは、川上さんの力量ゆえでございます。
 はあ。結婚てそんなにいいもんなのかなあと、結婚について、じーーーーっくり考えたくなる作品かも。それにしてもさりげなく鍛えられ人間的にも女としても成長したのゆりに比べ、男って男って…馬鹿ですな(笑)。登場人物らみんなよく食べてよく飲む。そういうところも川上さんらしくて、かな〜り好きな作品かも。