瀬戸内寂聴『奇縁まんだら』

奇縁まんだら

奇縁まんだら

 日本経済新聞土曜日の朝刊に連載されていたものをまとめた、その前篇とか。瀬戸内寂聴さんが作家となってから今までの生涯で、出逢い縁を結んでこられた文士・文壇の方々とのエピソードが綴られている。
 まず島崎藤村川端康成三島由紀夫谷崎潤一郎を始めとする、そうそうたる名前と数の多さに圧倒される。瀬戸内さんだからこそ見せた表情なんだろうなあ。文学年表に載る綺羅星のような方々が一人の生身の人間として立ちあがってくるかのよう。すごく身近に感じられる。略歴では窺い知れないいかにも人間臭い意外で新鮮な表情、今初めて知る驚愕の事実がてんこもりで、ものすごくエキサイティングな読書だった。写真ではなく、作家らしさを如実に表現している横尾忠則による画も味があって素敵すぎるほど素敵。稲垣足穂なんか「こう描くか!」にやりしてしまった。
 印象的だったのは、作家になる以前瀬戸内さんが三島由紀夫と文通していたこと、谷崎潤一郎佐藤春夫の「細君譲渡事件」の真相。『蓼喰ふ蟲』てそういう話だったのか!大坪砂男の名前がここに出てくるとわ!足穂とそんなご縁があったとは知らなかったし、いかにも宇野千代さんらしいエピソードに胸がきゅんとし、女流文学者会の温泉旅行の宴席で新入りとはいえ瀬戸内さんに阿波踊りさせた平林たい子てすげーと思い、遠藤周作の最期に涙した。一時期テレビでよく見かけた岡本敏子さんのことも。そうだったのか。しみじみ。
 さほど待たされることなく後篇も読みたい。今度はどんな方々とのエピソードが読めるのだろうか。
 そうそう作中触れられる文士劇のようすなどは、この写真集で知れます(読んでる最中に「どうせなら、あの写真集を傍らに置いて読みたいなあ」と思ったら、ちょうど今東光の項で写真集が紹介されてたまげた/汗)。
輝ける文士たち―文藝春秋写真館

輝ける文士たち―文藝春秋写真館

偶然とはいえ、この写真集を読んでいてよかったー。文士が文壇がある時代の空気が、ものすごく伝わってきて実感できるかと。