皆川博子『ジャムの真昼』

ジャムの真昼

ジャムの真昼

 刊行順序としては『ジャムの真昼』の発表の方が先だけど、宇野亞喜良の絵に物語をつけて幻想的で妖美だった『絵小説』を思わせる、一枚の写真や絵画から作家皆川博子が幻視した物語を紡ぎ出すという趣向の作品集だった。どの作品も死の予感が濃厚に漂い、幻想的でねっとりして息苦しくなるほど濃密な官能が絡みついてくる。それだけでなく背景には第二次世界大戦が昏い影を落としていて、戦争によって人生を歪められてしまったごく普通の人々の哀しみが、物語からひたひたひた寄せてくるかのようだった。
 どの作品でも皆川ワールドに耽溺。うっとり。最後で意外な真相が明かされ驚く話もあったけど、物語的に面白くしなくてもいいとさえ思ったぐらい。
 小説の題材として選ばれた写真や絵画も、単独で見てもこの上なく不穏で鮮烈で、胸をざわつかせるものばかり。特に「少女戴冠」のポートレートは圧巻の一言。「不謹慎?でも…でも…なんて美しい」皆川さんご自身を思わせる作中登場する作家のように釘づけになって、目が離せなくなった(この登場する作家が、収録のそれまでの作品を綴ったという趣向になっている。うーん。どの本も凝りまくってるなあ!
 2000年に刊行された本なのに、なぜ今の今まで文庫落ちしていなかったのか不思議だったけど、読んでみて納得。やっぱりこの本は、単行本じゃないとダメ、ですねえ。図書館で借りて読んだけど、単行本探して入手するつもり。