吉岡暁『サンマイ崩れ』

サンマイ崩れ (角川ホラー文庫)

サンマイ崩れ (角川ホラー文庫)

 第13回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作である表題作「サンマイ崩れ」と、書き下ろし「ウスサマ明王」が収録された作品集。
 表題作、長らくタイトルの「サンマイ」とは何ぞや?頭を悩ませていたのだが、読んで疑問解決。お墓のこと、なんですね。熊野山地の奥深い集落で台風による土砂崩れが発生。パニック障害離人症性障害で精神科に入院していた僕は、病院を抜け出しボランティアとして災害対策本部に駆けつけ、そこで出会ったやたら腰の低い不思議な老人ワタナベさんと消防団員2人とともに、土砂崩れで崩れてしまった墓地を直すために山へ分け入っていく、というお話。
 単なるボランティアでの道行きなのに、舞台となるのが熊野信仰で知られる聖地熊野だからか、まるで日常から非日常である異界へと深く分け入っていくかのような底知れぬ恐ろしさがある。主人公である僕がパニック障害離人症性障害の症状を引き起こす患者で、その視点で道行きが語られているのがこの作品の味であって、面白みがあって効果的だし、妙に生々しい。最後意外な真相に驚かされたが(半分は予想通り)、また冒頭から読み返すとなにげなく読んだ部分に含みがあったことに気付かされる。短編賞受賞作したのも頷ける、なかなかに心憎い工夫が凝らされた作品だった。
 同時収録の「ウスサマ明王」は、「サンマイ崩れ」が静ならば動、がらり雰囲気が変わった伝奇ホラーアクション(?)だ。次々に宿主を変え、さまざまなものに擬態して人間を殺戮しまくるユーマル(未特定鳥類様擬態生物)とそれに対抗する戦闘部隊の壮絶な戦いをスリルと迫力満点に描く。その戦いと同時に100年もの時空を超えた明治時代の親子6人の悲惨な運命が描かれ、2つの物語がどう関連し繋がるのか、そんな興味からも読ませる物語だ。
 視野人物となる人物がころころ変わるのが少し読み難かったけれど、「生き腐れ」いわゆるゾンビがゾンビたるゆえんが最後に明かされてすっきり。2つの物語がこんな風に交錯するとは思わなんだ。ただ力作だとは思うけど、私は「サンマイ崩れ」のが好みかな。