有川浩『ラブコメ今昔』

ラブコメ今昔

ラブコメ今昔

 「クジラの彼」に続く自衛隊ブコメシリーズ第二弾。タイトルで作者自らが「ラブコメ」て公言しちゃってるけど、ラブコメと言い切るほど、無邪気にベタ甘じゃない。甘いは甘いけど、それはやっぱり自衛官ですから。隠し味のスパイスがぴりりと効いて、甘いだけの物語にはせず物語を引き締めていると思う。
 印象に残ったのは、偶然釣り上げた彼はオタクの自衛官だった「軍事とオタクと彼」と、上官の愛娘とこっそり真剣交際を始めたものの、なかなか最後の一歩が踏み出せなくて、、、な「秘め事」かな。自衛官という立場と、とりわけ死と背中合わせの職場なのだということを、まざまざと思い知らされた。特に「秘め事」、なぜ男として認めながらも「いくらお前の頼みでもそれだけは聞けん」反対してしまうのか。その親心に泣けた。
 ただくっつく話だけじゃなく、ハッピーエンドで結ばれた後の結婚生活を描いた「青い衝撃」が、ちょっと毛色が変わっていてこれまた印象的。ゆさぶりをかける謎の女の存在にだんだん不安がつのっていき、精神的に追い詰められていくようすはまるで他人事じゃない。ま、結局はベタ甘なんだけど(笑)。自衛官の妻の覚悟も読めて、大満足。最初が「ラブコメ今昔」でシメが「ダンディ・ライオン」という構成も心憎い。
 お堅いイメージの自衛隊を舞台に、ベタ甘で王道の恋愛小説が繰り広げられちゃうところが素晴らしい。で、妙に合うから感心しちゃうんだな。くすくす笑って琴線に触れて泣けて。どのお話も大好き。ホント有川浩作品はハマるととことん、クセになる。