朝倉かすみ『田村はまだか』

田村はまだか

田村はまだか

 小学校のクラス会の三次会で花輪がマスターのスナック「チャオ!」に流れてきた男女合わせて5人のグループ。なかなか現れない田村をひたすら待ち続ける。「田村はまだか」。なぜここまで熱烈に田村の登場が待たれるのか、田村にまつわるエピソードが5人によって語られるうちに、次第に第三者で部外者であるはずの花輪も、そして読者も、5人と一緒になって田村の到着をひたすら待ちわびることになる。「田村はまだか」。
 てっきり短編集なのかと思っていたら、全部で6編収録された連作集なんですねえ。第二話以降は待ちわびる5人それぞれにスポットを当てて「40歳」というなんというか、、、まだまだという思いと、人生の先が見え始めてしまった諦念というか悲哀というか侘しさというか、そんな人生崖っぷちのぎりぎりな思いとの狭間で揺れ動く微妙なお年頃の心情を巧みに描き出していて、ものすご〜く身に沁みた。感情移入しまくり。
 5人がそれぞれ主人公になって、印象深い人生におけるエピソードが語られるのだが、その際、マスターが彼らを見る目がニックネームから本名に変わるのが心憎い演出だと思う。まるでマスターまで、田村の到着を待ちわびる同級生になったかのよう(てっきり田村は登場しないのかと思ったけど、5話後半に急転直下の展開が。どうしても何があっても作者は田村を到着させたくなかったらしい。意地悪!で、結局、、、なんだけど、、、うーむ/苦笑。)
 女性陣はともかく、男性陣がなぜここまで田村の到着を待ちわびなければならなかったのか、もう少し説得力がある理由が欲しいなと思ったし、正直、第1話だけで止めといたのが、、、と思わないでもないけど、登場人物らが人生のピークを越えつつある年齢だというところに、共感し気持ちが重ねられたのがよかった。気持ちよかった。私まで一緒になって「田村はまだか」待ち焦がれていたし。
 朝倉さんの作品を読むのはこれが初めて。ぜひ他の作品も読んでみたいと思う。そうそう表紙の人物は、誰かと思ったらマスターだったのね!