多島斗志之『黒百合』

黒百合

黒百合

 先入観なしで読んだのが絶対に面白い作品だと思うので多くは語りませんが、とにかくひと夏の甘酸っぱい初恋の物語としてもミステリとしても極上の傑作。後々まで余韻が残りまくって、、、しみじみよかった。
 (奇数章が1952年の六甲山が舞台の14歳の進くん避暑地の初恋日記で、偶数章が子供には内緒の大人の事情の物語、とでもいいましょうか。同じように初恋の物語を描いているのに、こうも色調が変わるものなのか。交互に読み進めるうちに浮かび上がってくる驚きの事実、そしてラスト5ページで、それまで見ていた世界がひっくり返る驚き。それよりなにより、真実を知ってから読んでも物語の面白さが薄れないばかりか、単調に思えた物語が変容して見えてきて、何気なく読み逃していた部分にさえどれほど細心の注意が払われていたのか、仕掛けの巧妙さに唸らされてしまうというとてつもない深みがある小説なのだった。書かれていない部分、ある意味、読者の想像力に委ねられる余白の部分が、ものすごくあるんですよね。その部分にあれこれ妄想かきたてられて、後々まで静かな切ない余韻として残るのよねえ。)
 「ボーイ ミーツ ガール」のひと夏の甘酸っぱい初恋の物語として読んでもよし、バリバリのミステリとして読んでもよし。とにかく私は、最後の最後まで恥ずかしながら真相に気付かなかったですよ(赤面)。