斎樹真琴『地獄番 鬼蜘蛛日誌』

地獄番 鬼蜘蛛日誌

地獄番 鬼蜘蛛日誌

 第三回小説現代長編新人賞受賞作。地獄に堕ちて鬼蜘蛛と化した元花魁が綴る地獄日記。生前、ことあるごとに蜘蛛を食べてきた元花魁は、望んで蜘蛛になる。怨んで怨んで、閻魔すら怨む鬼蜘蛛に果たして求めていた救いが訪れるのかと思いながら読んだ。
 歯切れがよい花魁言葉で綴られる日誌という形式がとても有効で、するりと胸の中に入ってくる。地獄という究極の闇の中で、さまざまな人間の業を見つめているうちに鬼蜘蛛に芽生えてくる思い。母と娘の確執の物語と読める部分もあって、そういう意味でも興味深い。
 地獄が舞台ゆえにグロい描写がたくさんあって一見するとホラーのように思えるけど、ホラーというよりは、そう生きざるをえない人間の業の深さ哀しさ、人間の生の根源について考えさせられる切ないお話だった。でも読み終えて胸に残るのは、静かなる感動なのだから不思議(この作品を読んで面白いなと思ったのは、地獄に堕ちた人間だけでなくその人間を苛む存在である鬼ですら、救われたい存在であるということ。蜘蛛、地獄と来て、お約束の展開がやっぱり登場するのだけど、こちらの方が好きだわ)。
 タイトルの強烈さに手に取った本だけど、想像以上に読み応えがあって満足。読み終えてから表紙を見ると、装画がとても意味深だったと気づかされるかと。