曽根圭介『あげくの果て』

あげくの果て

あげくの果て

 第14回日本ホラー大賞小説大賞短編賞を受賞した「鼻」収録の『鼻』(感想はコチラ)が強烈だった曽根さんの新作は、前作同様いや、それ以上に強烈で鮮烈だった。すごいすごい!ぞっとするような恐ろしい物語なのに、こんなに巧くて面白いなんて!この作者の才能は本物だわ。
 『あげくの果て』は『鼻』と同じく、3編収録された作品集だ。
 冒頭の「熱帯夜」はある夏の一夜の出来事を2人の視点で交互に描いたもの。1人は、偶然山奥にある友人である藤堂夫婦の山荘に居合わせたせいで、藤堂の借金を巡るトラブルに巻き込まれ、怖い筋の人間に藤堂妻と一緒に人質として監禁されてしまった「ボク」。2時間という猶予の間に金策に走った藤堂夫が戻ってこないと、ボクの元カノでもある藤堂妻が借金の形にとんでもないことになってしまうらしい。果たして時間に間に合って、藤堂夫は戻ってくるんだろうか。監視役のブッチャーがそら恐ろしい野獣として描かれていて、スリルと恐怖感をあおってくれる。
 もう1人は、女性連続殺人犯“切り裂きタマちゃん”逮捕のニュースを聞きながら夜道をドライブしていた看護師である「ワタシ」。山中で人身事故を起こしてしまい、はねた相手が大金を持っていたことから魔が差してしまって、、、。2人の視点による2つの物語がどう交錯し重なるのか、手に汗握りながら読んだ。
 後半も後半になるまで、どんな仕掛けになっているのか見当もつかずに、ただドキドキしながら読んでいた。重なり方が、、、なんというか絶妙(2つの物語がぴったり重なった時に、もう一つの別の物語が浮かび上がってくる趣向が面白い。“切り裂きタマちゃん”の特徴にそんな意味があったとは!巧いっ!)。
 表題作でもある「あげくの果て」は、現代の高齢化社会がもしこのまま突き進んだとしたら、もしかするとそうなってしまっているかもしれない近未来をシニカルに描き、毒っけたっぷりでとてもジューシーな物語だ(笑)。これもワンアイデアの物語なのかな?社会問題にもなって大きく取り上げられている深刻な問題を膨らませて作品に織り込んでいて、調理する題材の選び方のセンスの良さに唸らされる。
 でも収録された3編の中で私が読んで一番興奮したのは「鼻」を連想させる3編目の「最後の言い訳」かな。舞台となるのは、蘇生者と呼ばれ人肉を食べるゾンビと普通の人間が共存する社会。物語るのは現在Q市役所の苦情処理係で働く「僕」。小学校時代を過ごした町の近くのゴミ屋敷へのクレームを担当することになって、「僕」は思い出したくないあの時を思い出すことになる、、、。「僕」の子ども時代の回想(甘酸っぱい初恋のエピソードも)を織り交ぜながら、いかに蘇生者が増殖し社会を浸食し人権を獲得していったのか、このおぞましく奇妙な世界のあらましが語られる。
 痛烈に現代社会を皮肉っていた表題作よりも、この作品のがもっと上手。世相を盛り込み社会風刺していて痛烈だったかも。ここ最近ニュースを騒がせているアレとかアレを配して、こんなに読んで面白いホラーが作れてしまうことに、とにかく驚いた。着眼点が素晴らしすぎるほど素晴らしすぎる。そしてこのラストに絶句。何気に読み逃していた部分にしっかと伏線があったことにも気づかされ、二重の意味で打ちのめされたのだった(結局、食欲かよ!ま、有機無農薬野菜はンまいからね/爆)。
 現実と地続きのような、でも歪んだ世界の構築具合がとても巧い。ホラーとただ怖がらせるのではなく、メリハリのある小説を読む醍醐味も味わえるのがこの人の作風なのかな?伏線の張り方が巧くて「あれも伏線だったのかあ!」唸りまくり。しっかしTVでお馴染みのネタを並べて、こんなに恐ろしいのに面白くてちょっぴり切ないホラーを生みだしちゃうとは、なんて才能なんだろう。この作家の今後の活躍が楽しみでたまらない。好き好き♪