畠中恵『アイスクリン強し』

アイスクリン強し

アイスクリン強し

 「しゃばけ」シリーズが大好きな畠中恵さんの新作は、文明開化で浮きたつ明治時代が舞台。主人公は東京築地の居留地近くで夢の実現のために、西洋菓子店風琴屋を開店させんと奮闘する皆川真次郎(ミナ)だ。元士族で現巡査の「若様組」長瀬ら友人や、成金の令嬢で若様組のマドンナ沙羅と共に、いつの間にか巻き込まれてしまったトラブル解決のために、奔走する姿を描いた連作集だ。
 ミナが西洋菓子店店主兼職人だし、どれだけ甘い話かと思いながら読んだら、、、甘いどころかほろ苦さが残る話ばかりだった。江戸から明治へ時代が変わったことによって急激に変化したのは町並みや文化だけでなく、人間もまたそうだったこと。文明開化の華やかさ、目新しさにばかり目が行きがちだけど、すべての人間にとって恩恵だったのではなく、時代の急激な変化についていけず、江戸を引きずり、取り残されてしまった人間もまた多くいた時代だったのだと、教えて貰った気がした(ミナの友人である長瀬ら若様組のメンバーは元士族。維新で禄を失い、食べるために仇敵だった明治政府に使われているいわば反主流派だ。維新後の混沌の中、食い詰めて江戸に出てきた者が集まってできた貧民窟もある。かと思うと沙羅の父親のように、成金と陰口叩かれようと時流に乗って財をなした人間もいる。)
 謎解きうんぬんよりも、明治という混沌としたでも希望や野心に満ち溢れる時代の力強い空気を感じさせて貰って満足。早く大きく打ち寄せる時代の波に取り残されたり流されたりせず、自分の技量でしっかと立ち、泳ぎ切ろう時代を楽しもう面白がろうとするミナを始めとする登場人物らの姿が頼もしい。ただ連作集なのに、小弥太のことやミナの仄かな思いの顛末など、盛り込んだエピソードのいちいちが中途半端な気がした(全体を通しての謎があるにはあるけど、まったく意味がなかった気がする)。ぜひ続編も書いていただいて、すっきりさせて欲しい。