平田俊子『殴られた話』

殴られた話

殴られた話

 『ピアノ・サンド』が話題になった頃から、平田さんの小説が読みたくて読みたくてたまらなかったんだけど、なぜか機会がなくてこの作品でようやく平田作品デヴュー。“読み心地が良くない”作品だと小耳に挟んでそれを承知で読んだけど、本当に読み心地が悪い作品だった(笑)。
 「殴られた話」「キャミ」「亀と学問のブルース」の3編収録の作品集。「殴られた話」はその書き出しから、私こと平塚が女に殴られるシーンから始まって度肝を抜かれる。それから続くページでなぜ平塚が女に殴られることになったのか、その経緯と原因が綴られることになるんだけど、、、この殴った女、安部という女が、とにかく不愉快なんだな。椎名という音楽やってる妻も子もある男に勝手に熱をあげて「粉をかけ」まくり、ないことあること自分の都合がいいように脳内変換し誇張して、妄想ののろけ話を延々私に垂れ流しまくる。その聞かされる平塚自身が椎名の不倫相手で親しい関係だったから、、、さあ、大変(笑)。椎名を巡ってどろどろぐっちょんぐっちょんの平塚と安部の女同士の戦いが始まる、、、。
 成り行きで、つい平塚贔屓で読んでしまったんだけど、この安部という女が40歳過ぎてるのにまるで虚言癖のある子供みたいで、いうことやることの全てが「きぃーーーー」神経に障りまくるんだな。読んでる私の神経までささくれさせ、苛立たせる。いつしか読んでるこちらまで妙に強気な安部の鼻をへし折ってやりたくなり、罵り、殴られたお返しに3発ぐらい殴り返したくさせる、、、いつしか私を平塚にし、読者をも物語に引きずり込み、心の奥底に普段は眠っていて滅多に人に見せない醜い感情を引きずり出してしまうとは、なんて恐ろしい小説なんだろう。
 それだけでもすごかったのに、もっと驚かされたのが「殴られた話」が椎名を巡る平塚と安部の関係だけに止まらなかったこと。スライドしてそこに着地するとは、、、そもそもがそういう話だったのね。ま、平塚が安部でないとは言い切れないし、私が椎名でもそうすると思うし、私が平塚だったとしてもそうすると思うけど。でも、、、切ないなあ。
 「キャミ」は一方的に別れを告げられた不倫相手の男を忘れられないカズミの話。最初から最後まで未練がほとばしってる話なんだけど、言い回しとか妙に可愛らしくって。でも、カズミのやってることってストーカーだと思う(汗)。ラストが、、、気持ち悪いを通り越してとても痛い。そして「亀と学問のブルース」まで読んでようやく、作者の仕掛けに気がついた鈍すぎの私だったりする(汗)。
 女たらしの椎名。おっさんなのに、妻も子供もいるのに、フェロモン垂れ流して女を惹き付けて、モテまくる椎名。そして別れた女をこれほどまで切なくさせてしまう椎名。椎名と係わって、女たちは少しでも幸せだったんだろうか。狂おしいほど一途に一人の男を想える女心が、怖ろしくも哀しくも可愛らしくも感じる。
 詩人が書く小説らしく詩的な文章もとてもよかったので、これからも平田俊子作品を追って読んでみたい。