稲葉真弓『海松』

海松(みる)

海松(みる)

 川端康成賞受賞作である「海松」がようやく単行本に収録され、読めるようになった!読みたくて焦がれていたので、興味深く読む読む読む。
 4編収録されているうち「海松」を含む前半の2編は、私小説風の物語だった。湾を見下ろす斜面に建てた別荘ライフ。油断すると、猛々しい自然に呑みこまれてしまう別荘暮らしの中で、生活のための仕事に追われる日々で摩耗した心を癒し、それまでの人生を振り返り自分自身を見つめ直す内省的で静謐な物語が胸に沁みた。「3つの光」のエピソードが印象的。あと十数年経って「私」の年齢に近づいた時に再読してみたい。その時、「老い」を受け入れ、自分の人生をよしと肯定できるだろうか。