田山朔美『霊降ろし』

霊降ろし

霊降ろし

 表題作より「裏庭の穴」のが好みだった。冷え切った家庭の中で、主婦が独りきり。覚えのないミニブタを飼い始めてから、日常がじわじわ侵食され歪んでいく。主人公たる主婦がまるで「あるべき主婦」という役割を演じて、輪郭だけあって中身のない空虚な「家」に執着してるだけの存在に見えて、空しく哀れに思えてくる。静かなる狂気というか、妙に生々しいリアリティの凄味に打ちのめされた。
 「霊降ろし」は大人の淀んだ厭らしさに、揺らぎながらも女子高生の凜とした清廉さが際立つ話で。もしかしてやっぱり…。こちら側の青空が、私の目にも沁みた。