久保寺健彦『ブラック・ジャック・キッド』

ブラック・ジャック・キッド

ブラック・ジャック・キッド

 第19回ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作なので読んだものの、残念ながら私にはこの作品の良さが判らなかったみたい(汗)。
 ブラック・ジャックに憧れ、ブラック・ジャックになりたかった小学生和也の成長を描く少年小説。読んでいくと判るんだけど、郷愁小説でもある。
 物語の舞台となるのは、80年代初頭か?作者と同世代ということもあって、共感しながら読む。ブラック・ジャックに耽溺するあまり和也が引き起こす些細な、そしてとんでもない事件の数々を、情景豊かに生き生きと鮮やかに描き出す筆致は上手く、時に微笑ましく、時には心を痛めながら読んだ。
 客観的にみると、かなり悲惨な少年の日々なんだけど、ユーモアさえ漂い明るい雰囲気なのがいい。親の都合に振り回される子供でしかない和也にしてみれば、ブラック・ジャックは自分のアイデンティティであり心の支えとなるとなる単なる漫画の登場人物以上の存在だったんだろうなあ。
 ただ、途中二箇所ほどあるファンタジー部分というか非現実的な部分が、この小説には異質に思えた。ごく普通の少年の成長小説だった方が良かったと思うんですが[で、めぐみの正体は誰だったの?再会したシーン、あったっけ?]。
 私には、パピルス新人賞受賞作のが楽しめる気がする。そちらに期待。